吉川文代 


子供の頃、母に連れられ京都市浄土寺にあった祖父の家をよく訪れた。

おそらく祖父の家にかかっていた掛け軸が物心ついて初めて見た墨絵ではなかったかと思う。

骨董好きの祖父は、幼い私にも骨董市で買ってきた品々を楽しげに見せてくれたものだ。

東寺や北野天満宮などの大きな骨董市にも連れて行かれ、子供ながらに楽しかったのを覚えている。

そんな幼い頃からの経験から、古いものに親しむ気持ちが芽生えたせいか、後に日本画を描き始め、日本のみならず世界中の古い美術について関心をよせるようになっていった。

 

私は、何か異質であったり相反するものが融合したり混在するものが好きだ。

古いものと新しいものが混在する町、小さくて弱いものが精一杯生きている姿などに心惹かれる。

そこに生と死、あるいは夢と現実の間を行き来する境界のようなものを見出すからだ。

それは、無常観であるとともに生命の循環と再生のようなものかもしれない。そういった世界を象徴的に描けたらと思っている。


私の絵は日本画と墨絵の技法や考えかたを基調としている。

日本画は草稿と呼ばれる緻密な計算で練り上げた下図をもとに、地道なステップを踏んで何日もかけて一枚の絵をしあげる。

一方墨絵は、常日頃の鍛錬を要するが、いったん描き始めたら一気に描き上げる。

双方はその方法論において大きな違いがあるけれど、私の心の奥深くにあるものを一番うまく引き出して具現化してくれる点で一致している。

日本画と墨絵、双方の良さを生かしながら、心に触れるものを心行くまで描いていきたい。

 

2014年7月12日